MESSAGE FROM SANDEN TECHNOLOGY技術メッセージ

03さらなる進化へ、統合熱マネジメントシステム

「ITMS2.0」「ITMS3.0」の特徴を教えてください
大河原:

ITMSは、EVのモーター、バッテリー、インバーター系の廃熱を回収し、再利用するシステムの総称で、ヒートポンプの仕組みを利用し、冷媒を圧縮や膨張を繰り返すことで熱を移動させる仕組みをもっています。冷媒の温度が車外よりも低くなった場合は熱を吸収し、温度が上昇した場合は熱を放出します。
「ITMS2.0」は冷媒の入ったエアコンユニット(熱交換器)をダイレクト(直接)にキャビン(車室内)に取り入れ、冷媒が冷却または加熱に変化して冷房や暖房を作り出します。

一方、「ITMS3.0」で使用する冷媒はR290です。冷媒の熱交換器はダッシュボード内に配置させず、モータールームにインダイレクト(間接)に設置されており、そこで冷媒によって冷却・加熱された水(クーラント)が熱交換器に運ばれ冷暖房をつくり出します。この仕組みのため、R290冷媒がキャビン内で燃焼や爆発するリスクを抑えることができます。
サンデンの「ITMS3.0」の大きな特徴は、モータールームにエアコンユニットを設置するため、本体がとてもコンパクトであることです。サンデンでは、冷媒配管がなく本体に一体化させ、体積を小さくした冷媒ユニット(Compact Refrigerant-Unit:CRU)を開発しました。CRU内では冷媒から水へ熱を移動させ、水をEV全体に循環させて各部品の温度を制御・管理します。
熱の輸送手段を水にした理由は、PFAS冷媒規制への対応が背景にありますが、「R290」の使用量を抑える意味もあります。冷媒の使用量は現段階でも少量ですが、さらなる削減を目指して開発を進めています。

ITMSがEVにもたらすメリットは?
大河原:

従来は冷媒を循環させ、キャビン内を暖めたり、冷やしたりするだけでしたが、「ITMS3.0」になるとこれに水が加わります。温水や冷水をつくり出すことによってバッテリーを暖めたり冷やしたりできますし、モーターやインバーターの廃熱を回収して車内暖房に無駄なく使えます。充電中は、キャビン内の冷暖房を止めて、冷媒を循環させ水回路にてバッテリーを冷やし続けるといったことも可能です。つまり、車両の冷熱機器全体を最適に熱制御することで、省エネルギーで快適な空間を提供するのがITMSです。

製品化に向けてどのような課題がありますか?
大河原:

「ITMS3.0」の実現に向けた課題のひとつは、冷媒の安全性に配慮した装置を作らなければならないことです。従来の部品は、一部は使えるが多くのコンポーネントが新規となるため、設計の技術レベルも格段に上がります。冷媒を漏らさないシーリングの技術も必要ですし、水と冷媒を熱交換する積層熱交換器、絞り弁、貯液タンク、それにコンプレッサーをパズルのように組み合わせて小さな体積に収めていく、組み合わせ設計も高度化しています。
振動・騒音対策も必要です。EVではコンプレッサーが単独で取り付けられており、さらにモーターはエンジンより振動・騒音が少ないためにモータールーム内に搭載されると振動・騒音が目立ってしまいます。そこで防音カバーや専用マウントなどで振動・騒音を抑える設計も必要です。

ITMSの基本システムコンセプト

客室内の空調管理に加えてこのシステムには走行用モーターからの廃熱回収とバッテリーの熱管理機能も備えています。車両の総合的な熱管理を目的として設計されています。

ITMS2.0のモックアップ

R1234yf/R744システム

ITMS3.0のモックアップ

R290システム

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