エアコンガスである冷媒はフロンがよく使われています。その理由は、化学的に安定し不燃性、無毒性などの特性を持っているからですが、大気中に放出されてしまうと地球温暖化を加速する原因になったりします。このため、このフロンを使用した「R134a」と呼ばれる冷媒は、欧州で2017年以降すべての新型車での使用が禁止されました。日本でも乗用車はすでに新型車への使用が禁止されています。
こうしたことから代替物質の使用が求められているのですが、その中で登場したのが、「R-1234yf」と「R744」と呼ばれる代替冷媒です。「R1234yf」は、欧州の国で採用が決定され、今後主流となる冷媒として期待されていました。一方、「R744」は二酸化炭素(CO2)の冷媒で、無臭で可燃性がなく、安全性が高いという利点があり、ドイツの自動車メーカーの一部車種に採用されています。ただ、R744冷媒は圧力を非常に高く保つ必要があり、それに耐えられる丈夫な部品を安く作ることが課題です。
当社は、「R-1234yf」を使用したシステムをすでに量産化していて、ヒートポンプを採用した空調システムを「ITMS1.0」、バッテリーや走行モーターの熱マネジメントを含むヒートポンプを「ITMS2.0」と呼んでいます。
MESSAGE FROM SANDEN TECHNOLOGY技術メッセージ
統合熱マネジメントシステム・ITMSITMSが切り拓く
EVと地球環境の未来
02環境対応冷媒へ対応、ITMSが拓く可能性
- 空調というとエアコンガスである「冷媒」が重要ですが、どのような働きをしているのか教えてください
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大河原:
- 冷媒の規制は今後も続くのですか?
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大河原:
そうですね。「R-1234yf」は地球環境にやさしい冷媒として世界的に普及が広まっていますが、欧州では、有機フッ素化合物(PFAS)を規制する提案※がなされており、「R1234yf」も規制の対象となる見込みです。PFASは、環境中に長く残留する可能性があり、さまざまな業界で懸念が高まっています。
PFAS規制の先行きはまだ不透明ですが、我々を含め自動車業界のプレーヤーでは対策を進めています。代替手段はいくつかありますが、そのひとつが「プロパン」で「R290」と呼ばれる自然系冷媒です。プロパンは強燃性の炭化水素で、LPガスとしてよく利用されています。二酸化炭素より低い圧力で使用でき、環境負荷も少ない点が特徴です。しかし、燃焼性・爆発性が高く、臭いもないため、キャビンに漏れ出してもユーザーは気づかず、タバコなどで引火してしまうおそれがあります。このため、R290を使用する場合は、強燃性のためキャビンに冷媒を取り込むような通常のエアコンシステムの設計はできません。そこで当社は、R290を安全に利用しつつ熱マネジメントを高効率に行う「ITMS3.0」の開発を進めています。※欧州化学物質庁(ECHA)は2023年2月に新たな化学物質規制案として有機フッ素化合物(PFAS)の規制案を公表。