エンジンをもたず、モーターで駆動するEVは、キャビン(車室)の空調に加え、バッテリーやモーター、インバーターの熱マネジメントがとても重要です。特にバッテリーは適切な温度範囲を維持しないと、性能の低下や安全性に問題が生じる可能性があります。例えば、超高速充電を行うとバッテリーが高温になり過ぎて破裂などが生じる可能性があります。サンデンではこれらの問題を解決し、EVのバッテリーの温度を適切に管理するために「統合熱マネジメントシステム(ITMS)」を開発し、世界の自動車メーカーに提案しています。
MESSAGE FROM SANDEN TECHNOLOGY技術メッセージ
サンデンの開発に携わる技術者にインタビューし、電動車(EV)の快適性や環境性能を向上させる最先端の空調システム技術を分かりやすくお伝えします。
統合熱マネジメントシステム・ITMSITMSが切り拓く
EVと地球環境の未来
「統合熱マネジメントシステム(ITMS)」は、電動車(以下、EV)の快適性と環境性能を大幅に向上させるテクノロジーとして期待されています。サンデンでは、「世界ナンバーワンの統合熱マネジメント企業」を目指し、次世代のEVに求められるさまざまな技術開発に取り組んでいます。その開発の最前線に携わる技術者にお話を聞きました。
01部品も人も快適に、より遠くへ。EVの熱マネジメント
- EVにおいて「熱マネジメント」の重要性について教えてください。
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大河原:
- ITMSとはどのようなものですか?
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大河原:
EVの空調機器を動かす消費電力は、EVの電費(電力効率)や航続距離に大きく影響します。従来のエンジン車では、エンジンから発生する排熱を車内の暖房などに利用できましたが、EVにはエンジンがありません。電気ヒーターを使って暖房するので、その暖房に使った分だけ走行に使える電力が減少してしまうのです。実は、EVを電気ヒーターで暖房すると、走行に必要な電力と同じぐらい電力を消費するので、結果的に航続距離が大幅に減少してしまいます。また、雪の日や渋滞などで車両が停止中でも空調に電力が消費されるので、バッテリーはどんどん目減りしてしまう。こんな状況ではドライバーも不安を感じますよね。
- 消費電力を少なくするにはどうすればいいのですか?
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大河原:
電気ヒーターではなく、「ヒートポンプシステム」を導入すれば効率化することが可能です。ヒートポンプシステムは、外気から熱を取り込み、暖房を行う省エネルギー型の空調システムです。家庭用エアコンにも採用されていて、より少ない電力で効率的に熱エネルギーを供給できます。条件にもよりますが、電気ヒーターに比べヒートポンプは約半分の消費電力で暖房することができ、さらにサンデンのITMSは走行用モーターなどの熱を利用するため、より効率的な運転が可能です。
- ヒートポンプシステムが効率的に熱を得ることができる仕組みは?
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大河原:
簡単に説明すると、ヒートポンプシステムは、圧縮機・凝縮器・膨張弁・蒸発器と、それらをつなぐ配管で構成されていて配管内には低温でも蒸発する「冷媒」が循環しています。外気から熱を取り込みながら冷媒を圧縮・液化・蒸発させ、これを繰り返すことで冷房や暖房を行います。この「外気や走行用モーターの熱を取り込んで熱エネルギーを生み出す仕組み」により、消費電力の約2~6倍の熱を移動させて活用できます。つまり、少ない電力で暖房が可能となるため、EVのバッテリー消費量を抑えることができ、結果的に航続距離の延長につながります。ヒートポンプの原理について詳しく知りたい場合は、「p-h線図」でネット検索するとたくさん紹介されています。
- なるほど、空調の電力消費の問題は解決されそうですね
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大河原:
自動車メーカーは、より大容量のバッテリーを搭載するなどの手段も試みていますが、バッテリー容量を増やすだけでは電力消費が増加し続ける課題は解決できません。効率的なヒートポンプ技術を含む「統合熱マネジメントシステム(ITMS)」により、快適な空調を実現しながらバッテリー等の部品の快適性も保つことにより、EVの航続距離をさらに向上できると我々は考えています。